仕事に追われ『オペレッタ狸御殿』を観逃した…

(STORY)
 定年を迎え、赴任地の香港から日本に向かった父の突然の失踪。恋人の新聞記者の力を借り、その行方を追う娘と、見守る妻。手がかりを握る男は心中事件に巻き込まれ、目前で屍となる。
 やがて父は、何事もなかったかのように妻と娘が待つ家に帰宅。第二の人生として、貿易商社に勤め始めたことを一方的に告げる。背後に見え隠れする麻薬密輸組織、そして新興宗教団体。
 組織に、あるいは教祖に父は利用されているのか。真相を追うことをあきらめない娘は、やがて父の真実の顔に遭遇する。決定的な供述を新聞記者が得たことを知り、父はある行動に出る──。


けものの眠り監督:鈴木清順(1960年・日本)


 新聞記者・笠井正太郎に長門裕之、父・植木順平に芦田伸介(この配役はよい)、娘・啓子に吉行和子、母・ひさに山岡久乃、正太郎の先輩・堀部記者に小沢昭一。現在から見ると結構“濃い”のだが、当時の日活では地味めの配役だったのだろう。脇では、麻薬組織の幹部を演じる草薙幸二郎が記憶に残ったが、意外にも鈴木清順作品にはそれほど参加していないようだ。
 過不足なく活写される新聞社オフィス、過不足なく魅力を発する街頭ロケーション。第一幕と第二幕はすこぶる快調に運ぶ。ただ、今となっては、“セミ・ドキュメンタリー・タッチ”を標榜することにはやや疑問も感じる。ひと気のない伊勢佐木町(おそらく)でのチェイスシーンをはじめ、ドキュメンタルと見せかけながら微妙にシュールな雰囲気が顔を出すところがこの監督らしさだろうか。


 左右そして前後に不意打ち的に往復する──といった後期の持ち味につながるカメラワークを既に観ることができる(クラブ内のシーンでは息を呑むショットも)。走行する車に対する付けパンなども、よい感じ。横移動が得意な監督として知られるが、中盤、正太郎がゆっくりこちらに歩いてくるところをトラックバックで収めた、この映画では長めのカットがなかなか印象的だった。
 真相が明らかになる第三幕、カタストロフの第四幕はやや失速。正太郎が小松弘子(楠侑子)のアパートを訪れ、犯罪を告白させるために駆け引きする下りなどは丁寧な演出で見せ切る。ただ、過不足ない上手さだけでは退屈だと監督自身が気付き始めた時期なのかも。いずれにせよ、娯楽映画としての「型」を体得した後、これを壊していったのだということは、よくわかった。


[独断評…総合 5.5/10.0]
●設定 1.0/2.0
●物語 0.5/2.0
●俳優 1.0/2.0
●演出 1.5/2.0
●技術 1.5/2.0


(2005/08/27,CS・チャンネルNECO鈴木清順 日活時代全40作品連続放送(3))