“びゅーん”とね、飛ぶのね。


!! “記憶リセット映画”強化月間


 記憶がリセットされる、というよりは、記憶の外部がリセットされるような設定で始まる映画なのだが、“記憶リセット映画”の亜種として入れておこう。



 監督のジョセフ・ルーベンについては、ドナルド・E・ウェストレイク原案・脚本の『W/ダブル ステップファーザー』(1987)がサイコサスペンス(当時はまだ新鮮味があるジャンルだった)の佳品としてビデオ化の際に紹介され、その名前を知った。
 以後、ジュリア・ロバーツの『愛がこわれるとき』(1990)、 マコーレ・カルキン+イライジャ・ウッドの『危険な遊び』(1993) を撮り、似たような路線の『バッド・インフルエンス/悪影響』(1990)や『ゆりかごを揺らす手』(1991)を撮っていたカーティス・ハンソンと並んで気になる監督の一人だった。
 当時から後者の方が腕前は上だったとは記憶するが、それにしても現在のポジションに大きな開きができてしまった…。


 特に名前を記憶するきっかけになったのは、何とか中古ビデオ店で購入できた『ドリームスケープ』(1984・未公開)という作品で、こんな内容だった。

 他人の夢に侵入し悪夢の根源を絶つ実験に駆り出された超能力者。やがて彼はその研究が合衆国大統領と結び付いている事を知る……。精神世界における「ミクロの決死圏」とでも言うユニークな設定をフルに生かしているとは言い難いが、悪夢の世界を見事に具現化したSFXと魅力的なキャストに支えられて良質のSF映画になっている。「エルム街の悪夢」とほぼ同時期に作られており、これを見た監督ウェス・クレイブンが似たようなアイディアに仰天したというエピソードを持つ。
allcinema ONLINE ” 「ドリームスケープ<未> (1984)」から

 ただ、思えばこの着眼点はきっと、脚本を手がけたチャック・ラッセル(後に『エルム街の悪夢3/惨劇の館』『マスク』などを撮る)の功績だったのだが。


◎『フォーガットン』監督:ジョセフ・ルーベン(2005年・米国)


 さて、新作がこの『フォーガットン』なのだが。上映時間が近年では珍しい92分というコンパクトなものであるためか、正直なところ、ストーリー・映像演出ともにTVサイズ(広がりに欠ける)という印象で終わった。脚本を手がけたジェラルド・ディペゴは、近年は劇場用映画にも携わっているが、大半のキャリアはテレフィーチャーで築いてきたようだ(でもバート・レイノルズ監督・主演の『シャーキーズ・マシーン』なんて、懐かしい(!!)作品も手がけているのだ)。


 第一にストーリーだが、主人公のテリーに感情移入させる手続きが、あまりになさ過ぎる。そのテリーを演じるジュリアン・ムーアが、わずかな回想シーンを除いて終始、病んだような表情なのでこれも感情移入を阻む。演出(あるいは演技)の設計としてはミスなのではないかと思う。といったこともあって、前半は「かなり期待外れ」だったのだが、真相が明らかになる中盤以降、いくらか持ち直した(どんな真相か、ほぼ事前に知っていたせいかもしれない。知らずに観ていたら、後半も肩すかしと感じた可能性はある)。


 TVサイズとは言ったものの、VFXを使ったショック演出(何度か続くと笑えるものになる)については、下手な大作よりもずっと切れ味があるものだった。画面を(暴力的に)横切って即座に退場する往生際の良いVFXを、久しぶりに観たような気がした。
 メインのVFXを担当したのは、ソニー・ピクチャーズ・イメージワークスSony Pictures Imageworks)だ。社長である(はずの)ケン・ローストン(ケン・ラルストン)が、visual effects consultantとしてクレジットされている。ケン・ローストンは『スター・ウォーズ』のために結成されたILM草創期のメンバーで、後にロバート・ゼメキスと組み、その主要作のVFXを手がけてきた(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』トリロジー、『フォレスト・ガンプ』、『キャスト・アウェイ』など)。本人のコミットの度合いはわからないのだが、その精神は生きているのではないかと感じた。