中川信夫監督、稲垣浩監督なども生誕百年だそうです


 何号か前のものですが、『週刊文春』2005年4月7日号の小林信彦さんのコラム「本音を申せば」(第353回)で、“成瀬巳喜男・生誕100年”が題材にされてるのでメモっときます。
 なにせ未見のものが大半なので、取り上げられてる作品の中で、優先的に観たいなと思ったのが2本。まず『稲妻』(1952)。

 四谷生れの監督が、或る種の下町人の心の動きをよく描けたと感心してしまう。<本当の下町>を知りたかったら、「稲妻」を観ると良い。人情や粋なんて幻想はカケラもない。この<ミもフタもなさ>が監督の本質であり、以後の「夫婦」「妻」「晩菊」などに直結する。(P.67)

 そして晩年(亡くなったのは1969年)の作品となる『女の中にいる他人』(1966)。<ハヤカワ・ミステリ>初期の『細い線』(エドワード・アタイア)を翻案したもので、脚色は井手俊郎小林桂樹(田代)、三橋達也(杉本)が共演してます。

 この作品はミステリーとしての造りをしていないので、犯人は田代であるのが観客にわかっている。田代はさゆりと通じていたのだが、さゆりは首を絞められて快楽を感じる女であり、微妙な<細い線>を越えて、田代はさゆりを殺してしまった。そこが面白いところなのだが、監督の興味はそこにはない。
 田代の動揺と妻の雅子(新珠三千代)の不安と疑いが中心になり、原作を読んでいない人は、あっという驚きを味わう。新珠三千代の演技者としての凄みをいやでも感じる映画である。(P.67)

 日本映画専門チャンネルで「4ヶ月まるごと成瀬巳喜男劇場」として成瀬作品を放映中ですが、『女の中にいる他人』は5月のラインナップに入ってます。この際ついでに、小林信彦著『ぼくが選んだ洋画・邦画ベスト200』で、「20世紀の邦画100」の中に選ばれてる成瀬作品を抜き出しときましょう。

  • 妻よ薔薇のやうに(1935)
  • 噂の娘(1935)
  • 稲妻(1952)
  • 晩菊(1954)
  • 浮雲(1955)
  • 流れる(1956)