チャン・イーモウは乗り気で撮ったんだろうか…

 『HERO』(2002)は、ジェット・リードニー・イェンをあえて様式的な映像美の中に封じ込めたところが独創的だったのかもしれないなあ…。あちらはストーリーの運びにも“アート志向”があって、『紅いコーリャン』(1987)の監督がチン・シウトン(程小東)と組むことの妙味は、まあ感じることができた。でも、こちらはいけません…。

◎『LOVERS』監督:チャン・イーモウ(2004年・中国)

 映像派の作家のドラマ演出が緩くなるのは昔から常とも言えますが、流麗な(感情と切り離された)アクションが、さらに冗漫さを助長してしまってる感がある。切ないストーリーのはずなのに、どうも盛り上がりません。
 アクションも、様式化を極めた結果なのか、もはや“マンガ”。“劇画”調とか(日本の)“アニメ”調とかなら、まだ救われたのかもしれない。ですけど、やはり、これでは“マンガ”。ストーリーも“マンガ”仕立てに近いので、その線でチン・シウトンだけで撮っちゃえば良かったのかも。でも、チャン・イーモウなので“文芸”。その衝突が、効果的には働いてないのが残念です。
 “マンガ”調に大貢献してるVFXには、オーストラリアのAnimal Logic(『マトリックス』)や香港のメンフォンド・エレクトロニックアート&コンピュータデザイン(Menfond Electronic Art & Computer Design)などの名前を確認。さすがに危なげがないんですけど、小刀投げばかりで、力を持て余したんじゃないだろうか。
 酷評になってしまいましたが、美学を押し付けすぎの『HERO』よりも、こっちの方が感覚に合うという人も、きっとかなりいるだろうと思います。映像は確かに美しいですし。いちばん得をしたのは金城武かな。アンディ・ラウチャン・ツィイーの代表作として記憶されることはなさそうですが。
(2005/04/30,レンタルDVD)