ファミコン・モードの作劇プログラミング

 精神的に中学生から成長してないような大学生たち(=SF研メンバー)のふざけっぷり・無邪気っぷり(演技)が、あまりにも見事で。幼児性万歳、という感じ。聖典ビューティフル・ドリーマー』の味わいを、うまく再現してる。
 言ってみれば演劇的なハイテンション芝居なのだが、嫌な暑苦しさはない。舞台となるのは、まさに暑い“夏の一日”。相殺効果だろうか。カメラクラブの上野樹里(!)と真木よう子(!!)が汗を感じさせない芝居で応じるので、その効果もあるだろう(部室や暗室で汗かいてた? そういう見方はしてなかった)。
 とにかく本広監督の演出(合宿することまで含めての演出)に感心。『踊る〜』シリーズ(のあくまで映画版)はやっぱり気張ってたんだな、つくりこんだ世界観ではあることに変わりはないのだが、こちらの方が素直さがあって、お薦めできる。


 パズル解きモードで臨んだので、筋を見失うことはなかった。ただ、パズルのピースがはまっていく快感と、映画においてカタルシスを与えることとは、また別の話だ。そこのバランスをどう取っているかは、重要*1。『バック・トゥー・ザ・フューチャー』のアナーキーさや、大林映画的な情緒を好む立場から言えば少しだけ不満が残るのだが、副読本を読むと、作者(戯作者)の生理をかなり尊重した結果、こういう落としどころになったのだとわかる。
 終幕、「取り戻せない」感が胸に迫った。ので、それでOK(ただ、その後の一言の出し方のタイミングだが、これは成功しているのか?)。よく考えると、取り戻せない(やり直せない)過去じゃなくて、取り戻せない未来なので、これまた凄い。


 オリジナルが、無類の楽しさを提供していたであろうことは想像できる。が、演劇メディアと単純比較するのは酷。とはいえ、できれば混み合った劇場で、ゲラゲラ*2笑いながら観た方が幸福には違いない(私はシネコンのレイトショーだったので)。
(2005/09/09,AMCエクスピアリ16)


◎『サマータイムマシン・ブルース』監督:本広克行(2005年・日本)


 本広監督の映画ってこれまで大半、不必要と思えるほどにセットが大空間っぽかった。もっと言えば、間延び感があった。(スタッフを含め)大人数をさばくための要請もあって決して不必要ではなかったのかもしれないが、ゲーム盤上で人を動かす俯瞰趣味、のようなものも関係していたのではないか*3。『サマータイムマシン・ブルース』では、空間がいい感じで手狭になっている。ビット数にふさわしいポータブルゲーム機の感覚に近づいた。


サマータイムマシンブルース +(プラス) !

サマータイムマシンブルース +(プラス) !


 なんて前置きをした上で、副読本『サマータイムマシン・ブルース+(プラス)!』(太田出版)からメモる。この中で原作・脚本の上田誠ヨーロッパ企画)が、自分は「ドラマというよりはゲーム派ですね」(P.33)と言い、それに本広監督も同調する。そして話は、RPGの『MOTHER』に至る。

本広 『MOTHER』とかは?
上田 あー、あれはいい感じですね。
本広 でしょ。僕はスーパーファミコン版までだけど。三二ビットとか、もうダメ。
上田 そうですよね。表現力が上がりすぎて、逆に現実性がね。
本広 そう。絵はすごいんだけど、想像できなくなってくる。『MOTHER』は糸井重里さんが最初に作ったゲームで、あれはすごい映画作りに参考にした。
 ワンシーンだけちゃんと機微のシーンがあるんですよ。若者がお姫様を助けに行った時に、突然ダンスシーンになって、小さいドットがクルクル回るだけなんだけど、何かジーンとするんだよね。
(中略)
本広 機微が入った、素晴らしいプログラムと言われているゲームだよね。最初、蛇みたいなのと闘うところで、何がどうやれば倒せるのかがわからなくて。最後に「歌をうたう」っていうコマンドが出てくるんです。それに気づいたらクリアできるんだけど、気づかないといつまでたっても闘わないといけない。
 あの感じは、今回『サマータイム』ですごく参考にしたよ。そうか、こうやってプログラムでブワーって話を進めていって、最後に「未来は決まっている」ってなった時、いろんなモンタージュを入れて、バッハの曲を流して「機微」をガチャっと入力するっていう。(P.36-37)

*1:副読本にある「上田誠サマータイム参考図書」(P.13)では、『マイナス・ゼロ』を取り上げ、「パズルもどこまで凝ると快感になって、どこを超えると単なる辻褄あわせになるんか、そのラインを学びましたね」と記している。

*2:作者が狙うのは「ゲラゲラ」ではなく、「半笑い」とのことだが。

*3:副読本では恩田陸『ドミノ』を引き合いに出し、「上田くんが脚本書くとうまくいくんじゃない? あれってつまり、シミュレーションものでしょ。僕ね、『タワー』とか『ポピュラス』とか『シムシティ』とか大好きで、あの引いてる見てる感じを映画にできないかなっていつも思ってて、上田くんは変換できそう」と語っている(P.51)。