オダギリ009、仲間003で『サイボーグ〜』を、とか。


(余計なイントロ)


 レイトショー(1300円)なので、観客の数はかなり少ない(にしても少なくないか?)。終映は21時50分。エンドロールがほぼ終わっても、誰も席を立とうとしない。私も立てなかった。感動のあまり…ではない。どうも脱力してしまったようなのだ。
 すぐ後ろに女性の2人組が居た。明るくなった場内で一方が一言「面白かった」。これに相方は「え…」と微妙に絶句する。間を置かず「面白かった、って思わなくっちゃ」とポジティブ発言で気合いを入れ、同時に立ち上がる気配。たぶんオダギリ・ファン。
 前方および側方に見える数人は、まだ立つ様子がない。ここは渋谷。みな若い。そもそも脱力系なのか。いや、(いつも観る)郊外シネコンに居るような帰りの電車の時間を気にしている観客とは、気持ちの余裕が違うのだろう(終映も早めだし)。


(以下・ネタばれがあります。鑑賞後にどうぞ)


◎『忍 SHINOBI』監督:下山天(2005年・日本)


 想像していた以上に、原作からの改変があった。方向性としては、まあよいのかもしれない。「戦うこと」を扱った作品としては、コンセンサスをとりやすい主題設定なのかと思うし、終息ポイントに向けて主役2人の忍法の特性をうまく絡めてはいる。そして仲間由紀恵に、相応の見せ場が用意されている(相応に凄惨であることも、私は受け入れた)。
 しかし、特に前半を覆う停滞感は致命傷だ。デスマッチを言い渡され、弾正とお幻がいったん里に戻る悠長さが、すでにだるい。あれよあれよという間にストーリーが転がっていく原作と比較して勝ち目はないにしても、もっとテンポがほしかった。わかりやすく語ることに腐心したのかもしれないが、だとしても犠牲を払いすぎではないか。
 ダイアローグだけに頼らずに、映画を支える諸要素を総動員して世界観やキャラクターを描き出す策が、あまりに乏しい。5人対5人に絞ったにもかかわらず、主役2人および天膳(椎名桔平)と陽炎(黒谷友香)以外は、戦闘マシーンかそれ以下の存在感しか与えられていない。忍法の説明の仕方はやはり課題で、それも中途半端な感じだった。
 仲間由紀恵の発案で、朧と蛍火(沢尻エリカ)が語り合うシーンを膨らませたとのことだ。でないと、蛍火の絶命シーンに感情移入できないというのが理由で、それは正しい。ただ、それでも不十分と思われるほどで、戦闘要員としてはほとんど機能していない蛍火を物語上どう活性化させるかの無策は、明らかに脚本の瑕(の象徴)ではないのか。


 映画の2時間の枠内でもVFX表現はインフレを起こす。そのことを前提に映像の構成を設計するよう、そろそろ学習してはどうか。見せすぎると(+作業量が多すぎると)、結局ボロが出るのがまだ現実でもあるわけだし。ワイヤー+デジタルでうまく行っているところもあるが、冒頭からの鷹や、デジタルスタントマン(忍者)のアニメートが、あまりに拙い(『梟の城』から後退*1)。一方、朧の忍術「破幻の瞳」*2はハリウッド級の出来だったりして、力の配分に凸凹が目立つ。
 劇場パンフは買わずにメーキング本を購入。予測が当たり、ウォーターマークという会社が編集に関与している*3VFXチームのインタビューを読むと、“いかに本領を発揮できなかったか”という断り(エクスキューズ)が、関係者を傷つけないような巧妙な表現で記されている。毎度のことなのかもしれないが、かなり厳しい現場だったようだ。
 弦之介(オダギリジョー)のタイムストレッチ表現は、元は島村ジョー。最近のVFX表現で言えば山崎貴監督の『リターナー』か。ちなみに、『SHINOBI』と『リターナー』は同じ脚本家だったりする。動きを早回しにすると「コミカルになるだけで、失笑を誘ってしまう」(上記メイキング本)との判断があったそうだが、かといって光跡を残す表現(遡れば『ザナドゥー』?)も、もうひとつの出来。月面シルエットでの斬り合いはOK。こんなケレンを、もっと盛り込んでもよかったのでは。
(2005/05/26, 渋谷ジョイシネマ)

SHINOBIビジュアルブック―ストーリー+メイキング写真集

SHINOBIビジュアルブック―ストーリー+メイキング写真集

 

*1:1999年の篠田正浩監督『梟の城』に出てきたのは、日本映画では当時画期的だったモーションキャプチャーによるCGスタントマン。決して評判はよくなかったし、セルのアニメーターが動かす方がよさそうだと思った。しかし、『SHINOBI』のCG忍者は、「影」のようなニュアンスは幾らか出ているにしても、動きがやはり中途半端になってしまっている。

*2:フルCG 映画『ファイナルファンタジー FINAL FANTASY: THE SPIRITS WITHIN』でアキの夢のシーンを手がけた林田宏之さんの担当だそうです。

*3:SHINOBI』とVFXチームの一部が共通する『ドラゴンヘッド』のメイキング本(これは凄い出来)などを手がけ、『電子映造』という不思議な書籍(Vol.1とあるが続巻はあるのか?)にもかかわっていた。