『シベ超』。未見なのだが、やはり観るべきか…。


◎『ホラー・エクスプレス / ゾンビ特急"地獄"行』監督:ユージニオ・マーティン(1973年・スペイン&英国)


 「ミイラとゾンビと悪魔と宇宙人が交錯する狂乱の展開を、クリストファー・リーピーター・カッシングが懸命に支える、ゴシック・ホラーの限界点にあるような作品。誰もが終わって「ふう〜」と大きく息をつくに違いない」。──DVDの発売に寄せられている一文。黒沢清監督によるものだ(購入動機なので)。


 時代設定は20世紀の入り口。シベリア横断鉄道での極秘移送中に蘇生した「獣人ミイラ」が、乗客を次々と襲う。その眼力によって“脳内情報”(記憶)を食い尽くされた犠牲者を開頭すると…。いったんは撃退されたミイラだが、別人に憑依し、さらに餌食を増やす。混乱のさなか、その驚くべき正体が解明されるが、乗客たちには敵の居所がわからない。事態を察知したコサック(騎馬隊)が乗り込み、攻防戦の果て、氷原を疾駆する列車内は阿鼻叫喚の地獄絵図に──。
 前半は、人類学者を演じるクリストファー・リーピーター・カッシングがエレガントに主導。それが、テリー・サヴァラス(翌年『刑事コジャック』放映開始)の登場で転調する。終盤は、たたみ込むような展開でテンポアップ。その合間の妙なディテール(魚の目、とか)も、結構な味わいではあった。
 ホラー通でないため、趣向としての新規性や表現の独自性などは判断不能。知る範囲で言えば、5年早い『吸血鬼ゴケミドロ』(1968年)に、テイストが近い。ゴケミドロとスプラッタがOKなら、楽しめるに違いない。ただ、ホラー版「オリエント急行殺人事件」という惹句は、ちょっと違うのではないかと。


(以下・ネタばれがあります。鑑賞後にどうぞ)


 ミイラの正体は、原初の地球に降り立ち、太古から人類を“見守ってきた”(宿主としてきた)宇宙生命体だった。いや、始めから居たんだから、神あるいは悪魔と言った方がいいのか…といったしだいで、「(記憶装置、あるいは夢見る主体としての)私を殺せば、この世界はなくなる」と言い迫る個所が、私にはツボだった。ただ、つくり手にとって重要なテーマだったわけではないと思われ、その後の物語展開にはさしたる影響はないのだが。
 この作品は、シトヘス恐怖映画祭で最優秀脚本賞を受賞している。脚本家の2人(とプロデューサー)は、赤狩りの犠牲者なのだそうだ。宇宙生命体による人間乗っ取りは、赤狩りのメタファーと解釈することができる、とプロダクションノーツには記されている。
(2005/09/28, DVD)