“基本的に映画は待ってくれるのだから慌てることもない”
日本経済新聞土曜版(NIKKEIプラス1)に載っている映画評「今週の1本」は、毎週楽しみに読んでいる。この連載コラムを中心に、映画365本分を1冊に収録したのが、『映画一日一本―DVDで楽しむ見逃し映画365』(芝山幹郎・著、朝日新聞社・刊)だ。1年・12カ月・365日──のカレンダーに従って1本ずつ紹介していく構成なのだが、それぞれの月の主題として掲げられている映画作家の名前(ペアになっている)が、とにかく興味をそそる。目次代わりに挙げてみると──
01月 イーストウッドとシーゲル
02月 ヒッチコックと成瀬
03月 ルビッチとスタージェス
04月 コッポラとアルドリッチ
05月 ワイルダーとオフュルス
06月 深作と黒澤
07月 ライミとヴァーホヴェン
08月 ミリアスとハンソン
09月 キューブリックとアルトマン
10月 小津とフォード
11月 リンチとバートン
12月 ロッセンとふたたびイーストウッド
といっても、これらの監督による評価の定まった名作ばかりを扱っているわけではなく、ごく最近話題になった作品や娯楽作・異色作が、数多くレビューの対象に入っている。“通奏低音は「私の惹かれる映画」”“具体的にいえば、「気になる映画」であり、「心躍る映画」であり、「ひと言申し上げたい映画」であり、「繰り返し見たい映画」にほかならない”とのことで、つまりは選りすぐりの品ぞろえだ。365本あっても、まだ足りない。あと1年分まとめてほしい、と思わせる好ガイドになっている。
1本の映画評は、それぞれ600字程度。この分量で、十分に映画の魅力が伝わってくる。定式化されているわけではないが、レビューの構成法に、およその標準形を読み取ることができる。
① 映画史的なパースペクティブを持ち込んで、作品の位置づけを抽出する
② 物語の骨格と登場人物(役者)を、文脈上必要となる最小限で紹介する
③ ②の中にある特質(ユニークネス)を簡潔に摘出した上で、評価を与える
④ ③からジャンプ(反転)して、筆者独自の見解(レトリック)によって締める
筆者の博識にはかなわないにしても、Blogで映画のレビューを書いている人には、参考になる点が多いのではないかと思う。
- 作者: 芝山幹郎
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