川尻監督が押井監督のスタッフで撮ったような(オネアミス味も?)


 なんだ!? この量塊感の持続するアニメートは。
 しかも破綻があまり見られない。川尻善昭監督の作品あたりが、研究し尽くされているのではないか。プロダクションIGが切り開いてきたような色彩設計も、しっかりと移植されてるようだし。アニメだけでなく、ゲームのOPムービーなども美学的に参照されてそうな感じがする。


◎『ワンダフルデイズ』監督:キム・ムンセン(2003年・韓国)


 正直なところ、サイバー+デッドテックな世界設定には食傷ぎみだったんですけど、この作品では、そこはクリア。風景描写などに開放感があって、気が滅入らずに済みました。
 建造物も圧巻。精巧なミニチュアを撮って合成素材に使ったとのこと。知らずに見てたのでグローバルイルミネーションのような照明技術によるCGセットなのかと最初は思ってしまった(明らかに実写、とわかる個所もあるんですが)。ここ、制作上の手続き(処理)がよくわかりません。素直に考えればモーションコントロール合成ですが*1
 そうしたハイブリッド・テクノ・アニメながら、やはり驚いたのは作画の出来。芝居に違和感がなく、同時にアクションのけれんも十分(所々、微妙に鈍重だった気もしますが)。どれぐらいの年齢層が手がけてるのか。日本なら、30代後半から40代のベテランアニメーターが核になって成立するものなんじゃないのか。とにかく、ここまで来てる。
 つくった側も認めてるように、ストーリー(とそれを支える世界設定)は弱いです*2。ストレートなもので良いので、もう少しでも感情移入できるよう、中心となる3人のドラマを際立たせるエピソードが欲しかった。終盤、3人の運命が決まる場面の描写(詳細は説明しません)が圧倒的に素晴らしいだけに、ちょっと惜しいなとは感じました。


 日本での配給を手がけるのがガイナックス
 どこを切ってもSFアニメで、しかも依存する原作やキャラクターがないオリジナル。日本市場で期待されるような商業性は持ち合わせてないので、いかにガイナックスの名前があったとしても、興行は苦戦しそうです。日本が14カ国目の公開だそうですけど、他の国に配給されるのと、日本に配給されるのとでは全く意味が違うわけですから。
 その汎アジア性──日本語版の脚本と演出を手がけた山賀博之監督は“汎文化性”と表現*3──によって、結果、異文化(韓国文化)に触れる有り難味のようなものは薄れてる面があります(韓国アニメの技術力を知りたいなら別ですが)。そこは、ハイテクアニメ原産国で、かつ“韓流”ブームの最中にある日本というのは、ちょっと捩れてるのかも。
 この企画に、13億円、5年間を費やしてる、その事実が興味深い(日本のプロデューサーが入ってれば、ジェイやカレンといった女性キャラの活躍場面が増やされるのは必定でしょう)。見かけ上は日本のアニメと親和性が高いものの、精神(やマーケット感覚)は別のところにあるのでしょうか、それとも今後、そのあたりも接近するのでしょうか。


 デジタルアニメと呼ばれるものに興味のある人は必見でしょう。逆にアニメに関心のない人にはセールスしにくいです*4


関連SITE

(2005/04/26,アミューズCQN

*1:公式SITEのメイキング映像によると、カメラマップとかの面倒な技を使ったわけではなく、モーションコントロールカメラで撮影したとのこと。カメラはソニーのHD 1080/24P仕様。これに、元は小動物撮影用に開発されたというフレイザーレンズ(Panavision/Frazier Lens System)を搭載してる。先端が360度回転できることやディープフォーカスが特徴のシステムだそうです。

*2:スーパーバイザーとして名を連ねるのが『ラブストーリー』『僕の彼女を紹介します』のクァク・ジョヨン監督。劇場パンフでは、「韓国アニメの持っている問題点を全面に露呈してしまったともいえます。それはケタはずれに発達している技術面に対し、企画力や脚本が弱すぎること」と話してます。

*3:劇場パンフでは、「僕は、日本のアニメだけが奇跡的に獲得したと勝手に思い込んでいたこの汎文化性が、汎文化的に、かの国にも存在することを知ったのだった」「日本人は日本のアニメと言うが、元はディズニーの真似じゃないか。そんなことは、誰でも知っている、最初から、僕らは国際種目の一チームに過ぎないのだよ」などと話してます。

*4:昨年の東京国際映画祭における製作発表記者会見で山賀監督が、「弊社のアニメはいつも中高生が対象と想定しているのですが、これはまさにそれぐらいの年齢の人、特に普段あまりアニメを見ない女子中高生にぴったりだと思います」と語ってるのを知りました。すみません、そうしたユーザーにちゃんと届くのであれば、私の見識不足です。