“人は、出来なかった後悔にまみれて人生を終える”


 鴻上尚史さんの『ミリオンダラー・ベイビー』評の中にあった“いい作品”観が興味深いので、メモっときましょう。『SPA!』2005年6月21日号<ドン・キホーテのピアス(523)>からです。

 で、いい作品は、人生に対するリアリズムとファンタジーが同居しています。リアリズムだけでは苦しすぎるし、ファンタジーだけでは納得できないのです。
 リアリズムは、「人生をちゃんと負けた人が感じるリアリズム」です。
 ファンタジーは、「人生、やがて勝つという根拠のない確信に満ちたファンタジー」です。
 この二つを同時に持つというのは、それは難しいものです。
 イーストウッドは、ずっと人生を勝ってきて、「老い」という誰もが経験する「マイナスの感覚」をリアリズムの根底に置いているのかもしれません。「老い」は、死への恐怖につながるのです。
(P.152-153)

 この後レビューは、これから10年の間に迎えるであろう“格差社会”について、その中で「名作のような、いい人生にするコツ」ついて、と展開する。『ミリオンダラー・ベイビー』評については、(『キネ旬』などページを割いてるものを読んでも)ピンと来るものが少ない中では、鴻上さんらしい視点のコラムだと感じたのでした。