“良くなった時が怖いんだぞ”(多川精一)


◎『焼跡のグラフィズム多川精一(著),平凡社新書ISBN:4582852688


 雑誌の書評などで気になっていた一冊(未購入)。戦時中の対外宣伝誌『FRONT』をつくった東方社を舞台としている回想記です。17年前の著作『戦争のグラフィズム』に始まる「自らの仕事と出版史をたどる三部作」の中に位置付けられているということは初めて知りました。『朝日新聞』2005年6月19日付・13面<著者に会いたい>のキャッチは“出版デザインを生きる”。著者の多川さんのコメントからです。

 「60年たち、今日本を動かしてる人は戦争を知らない。戦争は鉄砲の撃ち合いや原爆じゃない。食う物がなくなり、買いたい物も買えなくなる。そのうち兵隊に行くことになって……。かつてと似てきている。日常の中でどう権力者と向かい合うか、東方社の軌跡を残すべきだと思った」

 三作目は『花開くグラフィズム』として締めくくる構想だ、とのこと。「良くなった時」とは、その(「花開く」の)意味。『岩波写真文庫』『月刊太陽』に携わった時代の話になるという。